これは、べるりんねっと789が配信していた、 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 |
メイド・イン・ジャパン
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六草いちか
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朝ゴハンが大量に降ってきて、みんなでパクついている時のことだった。でかい声が近づいてきた。 |
![]() 千日前商店街 |
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おいらを覗き込む目が4つ。 |
なにぃ?UFOキャッチャーをやったことがないぃ??おいらはでかい声で叫んじまった。叫んだ拍子に息が鼻から出ちまって、代わりに水が入り込んで痛かった。 |
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うそだろー!そりゃあインチキだぜ!!お玉かき回して釣れたとは何事だー!!おーい助けてくれー! |
天災は忘れたころにやってくる。おいらのかあちゃんが言っていたご教訓の意味がそのときやっとわかった気がした。 |
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そしてそのあとのことは覚えていない。住み慣れた千日前商店街は瞬く間に消え去り、おいらの袋はやたら揺れて、電車の音や靴の音がするのを袋にぶつかりひっくり返りながら聞いた気がするが、次に意識がはっきりしたのはこのふたりの住みからしい、やたら人間のいる小さな家の食卓の上だった。 |
実に変わった家族だった。落ち着かないほど電話が鳴り、ひっきりなしに人が出入りしていた。なのに「まいどっ!」とか「どないでっか」と言わないのだ。「何年ぶりかしら」といったり「今度はいつ会えるのかしら」と涙ぐむ。そんなに会いたきゃ毎日来ればいいだろうと言いたいとこだが、水から顔でも出そうものなら、ガキがすかさず覗き込み、「なっちゃん!」と言ってはおいらの頭を小突こうとする。おいらはここでは、無口を装うしかなかった。 |
![]() おーい、誰かいるか? |
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ある日ガキとカアチャンが、手に手を取って涙ぐんでいた。おいらをあのお店に返さなくてもよくなったと。どうやらニューコクノオジサンというおっさんは、ダメとは言わなかったらしい。おいらはもう観念していた。というよりここんちの食生活はあの仲間といた頃よりはずっといい。それにしてもオオゲサな親子だぜ。 |
「箱も合わせて500gですね」と言って、量りに乗せられたおいらを、えっれえ美人のネエちゃんが覗き込んでいた。 周りからは「ベルリンについたら電話頂戴」とかいう声が聞こえる。なんだそのベルリンってのは? ガキは、ヒコーキ、ヒコーキとはしゃいでいる。 なんだその非行期ってえのは・・・?ツイタラ電話?ベルリン?・・・もしかして、それは外国ってえのじゃあないかあ?? おい、おい、おいらは外国に売られんのか〜っ!!ベルリンってアメリカかあ?!おいらのカアチャンは、おれんちの先祖はアメリカから来たんだって言ってたぞー!売るんならアメリカにしてくれー!祖国にしてくれー!! |
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鼻からあぶくボコボコ出して、一生けんめい訴えてんのに、誰も答えやしなかった。そしておいらの箱はまた袋に入れらちまった。しかしおいらはそれ以上叫ばなかった。観念したわけじゃねえ。袋に押し込められる最後の瞬間に、お辞儀を繰り返しながらジイサンやバアサンが、涙を浮かべてんのが見えたから。おいらは千日前商店街では、人情家でも知られていた。 おいらの箱はそのあと、時々思い出したように袋から出された。景色はいつも同じで、ガキの膝の上においらの箱が置かれ、皆前を向いて座っていた。そして窓の外には板と空しか見えなかった。 どれくらい箱の中に閉じ込めらていただろうか。いきなり揺さぶられると思えばまた静まり、そのたびに見たのは同じ景色で、うつろうつろしちまって、今度目が覚めたらもっとギョッとした。 |
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ガキによく似た顔がさらにふたつも増えていたのだ。 三つの顔がおいらに食いつかんばかりに迫っている。 一人はどうやらオンナらしかった。盛んに「抱っこさせて」と言っている。んな汚い手で触んなよ。もう一人は顔こそガキに似てるが、訳の分かんねーやつだ。おいらを「ワンワン」だと抜かしやがる。 こりゃあ、エレエことになっちまったぜえ。・・・ |
ここへ来て2週間ほどになる。 |