これは、べるりんねっと789が配信していた、
「ベルリン発オンラインマガジン BN789」
2001年9月号に掲載された記事です。

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伯林銀蠅たちの夏!
 
 アーブスと呼ばれる直線コースを持つアウトバーンを南に走り、シュパーニッシェ・アレーで下りるといきなりすごいものが目に入る。バイク・バイク・バイク・・・。通りの両側にバイクが所狭しと停まり、人・人・人・・・暑そうに皮ジャンをはだけながら、単車乗りたちがその合い間を右往左往している。

ワワワ・・・!ベルリンの暴走族!!???
 腰を抜かしそうなくらいの迫力がある。
 この場所を誰ともなくシュピナー・ブリュッケと呼んでいる。シュピナーは「気の狂った奴」、ブリュッケは「橋」。訳して「イ カレ野郎たちの橋」というところか。
 しかし意外に危険はない。というより、どのバイクもピカピカに磨きが掛かり、品評会の楽しさがある。
 今日は、「イ カレ野郎たちの橋」の潜入レポートをお楽しみください!

ベルリン名物シュピナー・ブリュッケ

ベルリン中のバイク野郎がご自慢のマシンを並べている

 ピシリと巻きつけたバンダナに皮ジャン、腕にはタトゥー。しかめっ面で話し込んでいる彼に声をかけるのはちょっと勇気がいった。けれども目が合うや優しい微笑で応対してくれた。
 彼の名はアンドレアス。ベルリンに住み始め3年ほどになる。以来、「イ カレ野郎たちの橋」にあしげく通う常連だ。
 彼のご自慢のマシンはハーレー・ダビッドソンの53年モデル。手入れが行き届きどこもピカピカ。
 ヴィルフィールドはアンドレアスと一緒に立ち話をしていた友人だ。
 彼もまた3年前からベルリンに住み始めた。しかし誤解しないで欲しい。彼にはカワイイ彼女がいる。
 「バイクは男の乗り物。私は遠慮しておくわ」
 彼女はそう言って垣根に腰掛け日光浴。
 ヴィルフィールドのマシンもハーレー・ダビッドソン 。
 「99年モノだよ」と、自慢げに。


 ・・・おお、男前!思わず駆け寄った。
 「あのお、写真撮ってもいいですかあ??」
 言い方まで変わってしまった私に、彼はすぐに首を縦に振らなかった。タンクの部分にある傷を気にしているのだ。マクロで写さなければ見えないような小さな傷を。
 彼の名はデニス。YAMAHA-YZF。ちゃきちゃきのベルリンッ子。毎週ここにきているそうだ。いいことを聴いたゾ。
 シュピナー・ブリュッケには実際に来て見なければ分からない。どんなしかめっ面もみんないい人。少し話し掛ければ昔からの友人のように長話になる。そして彼らのマシンはどれもこれもピッカピカ。バイクもヘルメットも、いたってカラフル。
 タンク部分に本皮カバーとは、・・・おおお、ゴージャス!

 エドガーとSUZUKI GSX1100G。
 写真を撮りたいというと快く承諾してくれ、ライダーの正装、ヘルメットを被っちゃった。年齢は40代後半といったところか。彼もベルリンっ子で、昔からここに通っているという。この写真では分かりにくいが、ヘルメットの中の彼はかなりニコニコしている。
昔は掘っ立て小屋みたいな立ち食い屋が、今では立派な食堂に変身。店の名もずばり、「イ カレ野郎たちの橋」。
 
女性ライダーもチラホラ。彼女はヘルメットを持っていなければキャンパスを歩く女学生のよう。


空いてる場所はあるかしら・・・。スクーターで現われた女性ライダー。

ペアルックもよく見かける。

かなりボリュームのある女性。皮の上下に身を包み、彼の後ろにつかまっていた。


ここではスキンへッズも怖くない。

見せる人、見る人が行き交う。

あーだ、こーだと話は尽きない。


ベロとSUZUKI。
彼にとって9台目のマシンだ。

「こりゃあ、いい。こりゃあ。いい」
ビールを飲みながら大らかに話し掛けてきたクレールおじさん。彼はなんとチロル地方からここにリサーチに来たのだ。
 インスブルックに近い彼の町でも、ライダーたちの情報交換の場所として、「イ カレ野郎たちの橋」を導入しようと考えているのだそうだ。
気が狂っているとしか思えない??
売ります・買います・・・バイクに関するあらゆる情報が貼り付けられた掲示板もある。

(左)「どうしてここを知ってるの?」
私たちが聞くより先に話し掛けてきた。
ここに通うようになってもう20年になるというベロは、湖沿いの森の中の道を滑走し、ここに来て休憩するのが楽しみだという。
「ここは皆がフレンドリー。いい所だろう?」と、自慢げにポーズ。


また一台、休憩しにやって来た。


カールハインツとレナーテ

 (上)南ドイツ出身のディートマーがベルリンっ子のアンケに紹介されてここにやって来るようになったのは数年前。以来ここは二人のお決まりデートコースだ。
 アンケはヘルメットを取ると、ドイツ女性とは思えないような繊細な微笑の持ち主。
 
(左)SUZUKIやKAWASAKI、HONDAが圧倒的に多い中、BMWにまたがり姿を表わしたふたり。このマシンは彼にとって、なんと20台目なのだそうだ。
 ここに来ればオートバイ好きに出会えるし、来て楽しいから気に入ってると、南ドイツ出身のカールハインツさんのお気に入りの場所。



「約束しなくてもここに来れば会えるから、気軽にやって来るんだよ。」
反対側の歩道に停めて、対岸を眺めるようにのんびりとくつろいでいたアルフレード。
彼のKAWASAKI ZZR 600は5台目、これまでもずっとKAWASAKIに乗りつづけた忠実なファン。
「以前ね、Z1000を持っていたんだけど手放したんだ」
それは残念と言おうとすると、すっごい金額で売れたんだと意外な笑顔。


見てくれといわんばかりに停められたバイクたち



「お話伺っていいですか?」
「何でも聞いてくれよ。オレは40年以上前からここに通う古株だから」
おおお・・・!私たちを大いに驚かせたのはクラウスおじさん。
ここは当時もこんなふうにバイク野郎の溜まり場だったそうだ。壁が出来て数が減り、西ベルリンのバイク好きが増えて次第に復活し、壁が落ちると郊外から溢れるほど集るようになったという。
言われてみると確かにそうだ。ベルリンナンバーに混じり、郊外のナンバーもたくさん停まっている。彼のご自慢のマシンはなんと韓国製。DAELIMのDAYSTARだ。


 お祭騒ぎのように一日が過ぎ、陽が西に傾いていった。エンジンをかける音があちらこちらで増えていく。
 今日集まっていた「気狂いたち」は何百人になるだろう。
 5月1日にはこの場所でアトラクションがあるらしい。その日は5000から6000台のバイクが集るのだという。
クロイツベルクのデモよりきっと楽しいに違いない。デニス君探しにでも来てみようかなあ・・・。